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元町映画館☆特集

2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション選出『本気のしるし 劇場版』

男たらしの女。平気で好きでもないのに二股をかける男。その男女を追いかける男女。死も覚悟して愛そうとする男女。それを避け続ける女。

男たらしの女。平気で好きでもないのに二股をかける男。その男女を追いかける男女。死も覚悟して愛そうとする男女。それを避け続ける女。


「この映画、なんかおかしい」でも「おもしろい」。
今年ベスト級の日本映画が来ました。
原作は星里もちるさんの漫画。ドラマ化され、この劇場版へ。

『よこがお』『淵に立つ』の深田晃司監督が本作の映像化を熱望し、実現したという本作。


こんなお話。
退屈な日常を送る辻一路。彼は自身が勤める会社の先輩、後輩と付き合っている、そう二股。最低野郎。しかも年上の先輩の結婚したい想いを知っておきながら現状維持。彼はある夜にコンビニで出会った葉山浮世の命を救う。はじめ嘘をつかれ困惑していた一路だったが彼女に逢うたびに、その魅力に取り憑かれたように彼女を追いかけるようになる。一方、浮世には借金があり、業者から追いかけられていた。その借金を返済することになった一路。やっと彼女に近づける…と思っていたが実は彼女には婚約相手がおり…。

あれ、登場人物(特に主人公2人)は最低野郎なのに、ラストシーンで感動する自分がいる。

まず断っておきます。本作はドラマ版を劇場版として再編集。上映時間はおよそ4時間。「え?4時間」と思う方いらっしゃると思います。でも長いからダメっという考えは捨ててください。この深田晃司監督、やはり「映画監督」です。

前編と後編に分かれた本作。前半は登場人物のクズっぷりが徹底的に描かれます。二股、借金、駆け落ち。ネタのオンパレード状態ですが、ここですごいのは登場人物らのバランスがとれてること。「なんでこの人どうしようもないのに、生活できているんだろう」という人、周りにいませんか。それです。性格はどうしようもないのに、仕事をこなし部下からの信頼も厚い一路。
一方で周りから「性格キツイ」と言われ続けながら、生活のために仕事をする上司。観客から見てツッコミたくなることを登場人物が劇中で言ってくれる。「あの子、恋愛経験なさそうだからあまり本気にさせちゃダメよ」と上司が部下に言う。「そうですか」の生返事が結局、その通りになってしまうのは言うまでもない。

浮世は断ることが基本できない性格。押し売りには負ける。下手なのに車も運転しちゃう。おまけにダメ亭主と結婚してしまう。しかしどこか異性を惹きつける魅力を持つ。作品ビジュアルにも使用されているノースリーブをずっと着用している。季節感のないその姿であたふたしている。覚悟もないのに、流れるままに暮らしている。その危うさを借金取りがちゃんと説明してくれる。「あの女に惚れるやつはみんなダメになる。でもあの女のそんなところに人は引き寄せられる。破滅しますよ」。また観客が思っていることを登場人物が説明してくれる。この映画その繰り返しなのかもしれないが、それが見事なバランスを維持し進行する。どうしようもないが、そのどうしようもなさをだんだんと愛してしまう自分がいる。

特に本作の浮世役、土村芳さんが素晴らしい。役が自分に憑依するというが、この方、本当にこんな性格なの…と思ってしまうくらい、本作で一番自由でなおかつ後編はすべての登場人物を食ってしまうほど、「可哀想な私」を演じてくれる。
前半、借金を肩代わりしてくれたお礼に「私、良いっていわれますよ」と一路を半・誘惑するシーン。いや、こんな人絶対いないやろ…と思う自分と「いや広い地球だ、こんな人いっぱいいる」という思考がぶつかり合う。
映画監督がよくおっしゃる「映画は映画館で人に観られてはじめて完成する」。
この言葉に嘘はないと改めて感じる。この映画は登場人物とそれを観る自分のツッコミ、感想が互いにぶつかり合って完成されていく。多分次にそのシーンを見ると破滅しそうな気がする。

よく最近、男性らしさ、女性らしくという言葉を以前より聞くが、本作はもうこっちがお腹いっぱいになるまでキャラを立たせて、それぞれの強みがうみ出ている。厄介なのはたまに被害者ヅラして、相手を同情させてしまうところだろう。しかも美男美女だ。悔しいが、美男美女だ。
100:0で君が悪いよっと思っても、責めている方も少々悪いところが見え隠れする。感情を良いか悪いかどちらに持っていくか、選択肢、考える時間を与えた時間の取り方は、監督の力量に違いない。

なぜだ…。こんなにも不気味で友達にいれば、ちょっと距離を置きたくなるような登場人物ばかりなのに、観ていたくなる。
こんな恋愛したくないが、ちょっと羨ましい生々しさが映画にはある。

一言で言えば、いや面倒くせぇ!男女の話だけれど、観た後に猛烈に誰かに話したくなる。中盤なんか、観るのを放り投げたくなる展開なのに、後半は駆け落ち相手も登場で怒涛の連続。いつになったら感情起伏の恋愛ジェットコースター降りれるの…と。多分降りれないままぐるぐる回り続ける男女の結末。共感できるか、涙するか。我慢できずに笑ってしまうか。まさに観るものの目が試される4時間の傑作です。ぜひ劇場でご覧ください。
本気のしるし 劇場版
(監督:深田晃司/2020年製作/232分/G/日本/配給:ラビットハウス)

上映スケジュール
10/17(土)~10/23(金)12:10~
10/24(土)~10/30(金)18:10~