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元町映画館☆特集

ゾッとする幸せ『リトル・ジョー』

カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得、出演のベン・ウィショーの人気も相まって上映前から話題の本作。

(c)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
(c)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
まさかこのコロナ禍で本作を上映することになるとは…。
 
カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得、出演のベン・ウィショーの人気も相まって上映前から話題の本作。しかししてやられました。ホラーなのかな、ドラマなのかな、と思っていたら禁断の花を通して描かれたのは人間愛。

こんなお話
花など新種を生み出すバイオ企業に勤めるシングルマザーのアリス。彼女は人を幸せにする真紅の美しい花の開発に成功する。その名は息子の名前にちなんで“リトル・ジョー”と名付けた。歓喜する開発者たち。だが自ら成長していくその花は人々に変化を与えていた。しかも知らず知らずのうちに…。

まず第一に綺麗なものほど不気味だということ。
主役のリトル・ジョーはまさに“真紅”という言葉が似合う正直さ。それを取り囲むのは無機質な研究所。生命体がそこで育っているとは微塵も感じさせないさっぱり感が余計にリトル・ジョーの不気味さを増幅させる。そんな花に翻弄されるのは研究所の職員たち。着用する制服は緑というより水でさらに薄めたミントグリーン。なぜ白じゃないと思いつつも、真紅の花を中心に人間が葉っぱとして、合わせて“花”のように見させる技術。序盤、それが画面いっぱいに広がるシーンは圧巻。

物語が進むにつれて、花の誕生から人間関係へ。主人公のアリスは研究所の仕事が楽しく、一方で旦那は周りに家もない大自然で暮らす真逆の生活を送る。息子は母アリスの様子を伺うように生活する。アリスはそんな息子に研究所には内緒でリトル・ジョーをプレゼントするのだった。花の効果で息子に変化が訪れる。花の効果は通称「人をハッピーにさせること」。花を育てるには第一に「何よりも愛すること」。相思相愛の関係だ。息子がほのかに感じていた母親からの愛情の欠如、「自分は愛されていないんではないか」という不安を「花を愛す」ことで補おうとしている。そんな息子の変化にいち早く気づいたアリスは足りていないところを必死に補おうとするが、リトル・ジョーのハッピーにさせる効果によってその距離はどんどん遠くなっていく。いや、むしろ違う人間のようになってしまう。見た目はそのまま、中身が何かとすり替わったかのように。

そしてアリスと親身な関係になっていた同僚や息子が連れてきた彼女、リトル・ジョーの開発に否定的だった上司さえもいつの間にか花を愛することを第一に暮らし始める。それがこの世の中で最も一番大切なことのように。

アリスは周りの変化がリトル・ジョーを中心に広がっているのではないかと疑う。同時に母親として何をすべきか、必死になっていく。臨床心理士やパートナーに相談したり、料理ができない分、美味しくなるような近づく努力する。最初は花の誕生に愛を注ぎ、息子が花を愛するようになると、次は息子に愛を向ける。三角関係。仕事と家族を両立させるのは難しいということか。

花を通して人が変わっていく。かと言って誰かに迷惑をかけることも、SF映画にでてくる侵略、感染という言葉ではない。その直接的な言葉が出てこない分、得体の知らなさがある。パッキリとした展開、怒涛のような展開とは程遠いが、それでもじわじわとこの作品を愛してしまっている自分がいた。まさか…リトル・ジョーのせい??
ぜひ大きなスクリーンでご覧ください。
リトル・ジョー
監督:ジェシカ・ハウスナー/2019年/オーストリア・イギリス・ドイツ/105分

上映スケジュール
8/29(土)~9/4(金)17:00~
9/5(土)~9/11(金)14:40~