2015年、架空のカナダ。15歳のスティーブは多動性障害（ADHD）のため情緒不安定で、時に激しく攻撃的になってしまう。そんな息子を一人で育てる気の強いシングルマザー、ダイアン。問題を抱えた隣人カイラとの交流により、2人の関係も少しずつ変化していくが…。

若き天才監督グザヴィエ・ドランにとって、“母親”は自身のセクシャリティー同様、最も重要なテーマだ。デビュー作の『マイ・マザー』では母親のすべてに苛立つ少年をドラン自身が演じ、思春期のもがきをリアルに感じさせた。同じく母親を題材にした新作『Mommy/マミー』では少年とともに母親を軸に据え、その感情の揺れも描くことで、映画はさらなる高みへと上りつめたように思う。誰より愛し合っているのにお互いを抱きしめる手は傷だらけ、そんな2人の愛に満たされる瞬間はこれ以上ないくらいに幸福で、痛みは何よりも鋭く心を引き裂く。

音楽使いのセンスも初期から高く評価されているドランの作品だが、今回もまた観る者の感情に強く働きかけてくる。特にオアシスの名曲「ワンダーウォール」がかかる場面では、映画的マジックが画面にも施され、かつてないほどの感動に包まれること必至だ。

すべての母親とすべての子どもたちへ。これが新世代の旗手グザヴィエ・ドランの現地点。映画はまだまだ、私たちをドキドキさせてくれる。

元町映画館☆特集トップへ戻る→